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​絵画から見えてくる 3次元認識の特性

​絵画と3次元認知  ピカソの目の謎

発達障害者の仲間たちが描いた作品を見てみよう

「はーとふるビレッジ」(茨城県石岡市)は、介護が必要な障害者の福祉支援施設です。この施設には、ボランティア活動の一環として絵画教室があり、施設で生活する仲間たちは、自由に楽しげに絵を描いています。

                

下の絵は、施設の仲間たちが素朴に一生懸命に描いた絵画です。

絵画の指導者によれば、彼らの絵画力は年々向上がみられ、ユニークな色使い、構図のおもしろさなどに眼を奪われるとのことです。

絵画には、「作者が、絵の対象となる形・姿をどのように見ているか、どのように見えているか。それをどう表現しようとしているか」が隠れています。​絵画の中に何が語られているか、3次元認知の観点から作品を見てみましょう。

賑やかな町

花火大会

「賑やかな町」の絵は、

人や乗物や動物が個別に羅列され配置されています。

この絵から、作者の目は全体を見渡す視野に乏しく、対象の一つ一つに目の焦点を当てていることが覗われます。

また遠近や奥行き感のないことから、立体視が難しい E タイプの特性が表れているように思います。

​秋の景色

左の「秋の景色」は、鮮やかな色使いで、印象画を思わせるすばらしい色と構図を持つ絵です。

ただ、遠近や影の描写がなく平面描写であるところは、Eタイプの目の特性を表しています。

なお、Eタイプの人が描く絵は、なぜか色鮮やかな原色で描かれていて、中間色はほとんど使われません。色覚にも特殊性があるのでしょうか。

「花火大会」の絵には、人や花火や焼きそば屋さんが、平面的に羅列されています。

描かれた人も焼きそば屋さんも、陰影がなく、奥行きや立体感や遠近感が描かれていません。おそらく片目による認識のもとに描かれていると考えれられるところから、E タイプの視覚特性を表していると思われます。

父のびょうき

スクリーンショット 2018-08-04 9.21.57.png

​中央にいる父の顔が、右半分は病気の父の顔、左半分は普段の父の顔になっています。・・・この絵を見て、

「あ、ピカソの絵に似てる」と思った人はいませんか?

私は、この作者の目は、右目と左目が別々のものを見ていて、右目像と左目像は日常的に異っているという視覚構造を持っているのではないかと想像しました。そのため、異なる像(表情)を合体して描くことに、さほど抵抗はなく、ごく自然に二つの顔を合体して描いたのではないでしょうか。

茨城県石岡市「はーとふるビレッジ」の仲間たちの作品 より

絵画には「絵の対象となる形や色を、作者はどのように見ているか、どのように見えているか。それをどう表現しようとしているか」が隠れています。​

上の作品を描いた「はーとふるビレッジの仲間たち」は、おそらくEタイプの特殊な視覚を持っている方々であろうと、私は考えています。

右は、標準的なAタイプの見え方のモデル図です。

左右の視線はほぼ前を向き、右視野と左視野が

重なる範囲が大きいのが特徴です。その分、立体

や影や遠近を無意識に認識しています。

E タイプの左右の視野の例

下は、Eタイプの特殊な見え方を表したモデル図です。

Eタイプは、左右の視野が重ならない、または重なる範囲が極めて狭いのが特徴です。従って、Eタイプは、奥行きや立体や遠近などの3次元認識が出来ない、または3次元認識に関して障害があることが考えられます。かわりに、右目と左目は別々の方向のものを見ていたりします。

はーとふるビレッジの仲間たちの絵画には、それらの特徴が反映されていると考えています。

                         詳しくは ⇒ Eタイプの特殊性

ピカソの目の謎

ピカソの目の謎

パワフルで先進的な絵画を描き続けた 天才画家、パブロ ピカソ。(1881~1973)
ピカソは従来の一視点からの遠近法による描画法を打ち破り、キュビズムという表現方法を発表し、美術界に衝撃的な影響を与えたことは有名です。
オブジェクトを複数の異なる視点からとらえ、それを一つの画面に描写するキュビズムという表現方法。この表現方法が成功したのは、ピカソの天才的な素質と絵画への情熱によるものですが・・、それに加えてピカソには隠れた秘密兵器があったのではないでしょうか。
その秘密兵器は、ピカソの目。
ピカソの目には、3次元認知に関して特殊な視覚構造があり、その視覚構造がキュビズムの作品に生かされたのでは、と私は考えてみました。

多視点で描くキュビズム 法

従来の絵画は、一つの視点で眼前の景色や物体や人物を描くという表現法で描かれていました。

​ピカソが始めたキュビズムは、視点を移動して色々な角度から見た平面描写を、一画面に再構築して表現するという手法です。
常人には、例えば人の顔を描写するにあたって、
「横の方から見た顔と前から見た顔を、合体して同じ一つの画面に描く」
という奇抜な発想は、思い浮かびませんね。
しかし、ピカソはその発想を、自分の絵画で実践しました。
この天才的な発想には、ピカソの目が関わっているのではないか?
というのが、私の発想です。
もしもある人が、日常的に「横の方から見た顔と前から見た顔の二つが、同時に見える目」をもっているとしたら、どうでしょう。
「横顔と正面顔を一つの画面に描く」という表現法は、それほどの抵抗もなくスンナリと出来るのではないでしょうか。
〜〜それが、ピカソの目ではないか!? 〜〜 と。
たとえば「ドラ・マールの肖像」に描かれた女性の顔は、正面向きの顔と、横顔とが、同時に一画面に描かれています。
ピカソは、人の顔をみたとき、ピカソの目には正面の顔と横向きの顔が同時的に映じるという、特殊な視野をもっていたのではないでしょうか?
つまり、ピカソの右目視線と左目視線は異方向を向いていて、左右の視野が合体対せずに別々のものが見えていたのではないか〜〜!?
ピカソの特殊な視覚に関する私の想像を、図で表してみました。
​下のモデル図で、皆さんはイメージ出来るでしょうか?
なお、実際に「ピカソの視野は右方向優勢か、左方向優勢か」というクェスチョンについては、なかなか答えが定まりません。
​ネットで検索したところ、あるブログが目に止まりました。
 →ひえもんさんのブログ「ピカソは右利きですか」です。
版画では左右が逆転します。ピカソはその点に頓着しないのでしょうか?
そう思ったのは作品の中の製作日が逆になっているからです。
すると人の顔はどうなるのでしょう。
 一人の横顔を描いた作品の多くが右向きです。右横顔を見せています。
 でも本当は左横顔を描いているのですよね。」
          続きは →ひえもんさんのブログ
​〜〜ひえもんさんの目のつけどころ=<ピカソの版画の制作日が逆になっている>=には、「なるほど」と感心しました。
ピカソはキャンバスに左横顔を描いたのだけど、版画になると右横顔に変わるという​点で考えると、では、ピカソの視野の方向は左に向いていたと推定されるのでしょうか・・?(私は美術には詳しくないので、ご専門の方にご検討いただければ、と思います)
      
​ピカソの作品からは、もう一つ、立体視(遠近)に関する特殊性を見ることが出来るでしょう。
従来の絵画では、一視点で描く遠近法が主流でした。近くのものは大きく遠くのものは小さく描き、陰影をつけて影を現すことで、立体や遠近を表現するという絵画法です。
しかし、ピカソの作品には、一視点で描く遠近法を用いた描写(特にキュビズム以降の作品)がほぼ見られません。人物も物体も凹凸の表現は色で表現され、陰影による表現がありません。ほぼ、平面描写です。
かわりに、多視点からの描写で対象の隠れた面を表現しています。
多視点による表現方法を使うと、対象を別の角度から描くことが出来ます。一視点では見えない美しさや隠されたものを描き出すことができます。それを一画面に再構築することで、新しい表現が可能となります。
この表現法が成功を見せたのは、天才的な才能を持つピカソだからこそでしょう。                                    ピカソの作品を見る 
ピカソによる多視点の表現法は、ピカソの視覚という観点から考えた場合はこうなります。
「ピカソの右目視線と左目視線は異方向を向いていた。
従って、左右の視野が重なる範囲が極端に少なく、立体視(3D認知)が不得意だった。その代わりに得意の多視点からの視野像を絵画に生かすことによって、新しい表現法が生まれた」・・・と。
          →立体 (遠近) は両眼視によって認識される 
ピカソの目は、やや上向きのギョロ目(鋭い光を帯びた大きな目)という印象があります。​この鋭い目に映じる左右の目からの映像は、常人の映像より強烈な印象を脳に刻んでいたのではないかと、私は想像しました。
​平凡な人々にとって、この表現方法は衝撃的であり、革命的でした。前衛芸術として称賛する人もいれば、「気が狂った」と排斥する人もいました。そして後に続く多くの画家に影響を与えました。

ピカソは、視覚に関してだけでなく、いろいろな面で特異的な能力をもち、それを開花させた人なのでしょう。天才とは、そういう人たちなのでしょうか。

一視点で描く遠近法からの脱却

「ピカソの目の謎」を推理したキッカケ(起因)は・・・・?

ひえもんブログ・ピカソ

「ピカソの目は 特殊な立体視(3次元認知)の構造をもっており、

   それが絵画に生かしされた」

​と、私がそう考えるようになったのは、1995年、Kちゃんという女子中学生の悩みに耳を傾けたのがキッカケでした。
Kちゃんは
「左側から見た立体図(右側面図)認識できない、うまく描けない。
 右側から見た立体図(左側面図)は認識できる、描ける。
という一風変わった立体視異常をもっていたのです。
そんなKちゃんが描いた立方体(箱)の絵は、下のような絵でした。
 
その後、Kちゃんの立体視異常は、Kちゃんの視線が正面をではなく右方向に偏っていたことが原因で、立体視に異常を来たしていたのでした。 
Kちゃんの視覚を是正することによって、Kちゃんは友達とおなじような絵を描くことが出来るようになりました。  参照→Kちゃんの事例 
私はその後、視線の方向性を検出する ピンホールテストを利用し、皆さんの視野をテストしたところ、多くの人は視線が真正面を向いていないことが分かりました。中でも、視線の方向が著しく偏っていて、立体視が出来ない人がいることにも気づきました。
「ピカソは 自分の特殊な立体視(3次元認知)を絵画に生かした」
という私の発想は、Kちゃんの立体視異常の延長線上にあるものです。そしてこの考えは、決してピカソの芸術性を否定するものではありません。

Kちゃんは、右側面図をうまく描けない。左側面図は描ける。

Kちゃんが描いた立体図

私たちの立体視は多少なりとも、 Eタイプの要素を持っている

知的障害、発達障害、統一性失調症の児童が描く絵の多くは、立体を現す奥行きや影などを描くことがありません。また遠近画法をもちいて遠近を現すことがなく、平面的描画、並列描画が目立ちます。

おそらく、絵画の作者がピンホールテストをすれば 、Eタイプという結果が出るのではないでしょうか。

”発達障害 ←→ E タイプ”に見られる相互関係は、視覚が発達障害に重要な役割を担っていることを語っているように思います。

​Eタイプの3次元に対する特殊性は、障害ではなく、視覚的な個性や独自性として解することも出来ます。私はそう理解したい。

この世は多数派が優先され、主流になっていますが、少数派であるE タイプは多数派が持たない独自性や個性を持っています。多数派が想像すらできない驚きの知覚的能力で、多数派を圧倒することもしばしばあります。が、多数派に受け入れられるのは難しい。

​天才と言われる芸術家や科学者は、凡人を超えた非凡な個性や独自性が光りますが、絵画の世界でも、天才画家と言われる人の中に、Eタイプの人がいるのではないかと想像されます。

ピンホールテストを実際にすると分かりますが、私たちの視線は完全に正面を向いていません。全ての人の視野の位置は、右や左、上や下、前や後ろ、で傾きがあると言って、過言ではないでしょう。〜〜〜ということは、厳密には私たちの立体視は多かれ少なかれ、 Eタイプの要素を持っていることになります。〜〜〜それが個性という違いに反映するのでしょうか。

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